水銀を含む排水の処理(硫化物法・有機水銀の分解・キレート樹脂)
エコまる
水銀の排水って、どうやって取り除くの?有機水銀はそのまま沈殿させられないの?
水銀を含む排水は、水銀イオンを難溶性の固体に変えて沈殿させ、ろ過で取り除きます。
中心になるのが硫化物法です。
ただし有機水銀はそのままでは沈殿しにくく、先に分解して無機の水銀に変える前処理が要ります。
水銀の排水処理は「無機水銀」と「有機水銀」で道が分かれる
同じ水銀でも、無機か有機かで処理のルートが変わります。
無機水銀(水銀イオンなど)は、硫化物法で硫化水銀として沈殿させて除きます。
有機水銀(メチル水銀など)は、まず塩素で酸化分解して無機の水銀に変えてから、同じ硫化物法で処理します。
有機水銀(メチル水銀)は無機水銀より毒性が強く水俣病の原因になった物質で、排水中から確実に取り除く必要があります。
沈殿させたあとの仕上げには、活性炭吸着やキレート樹脂による高度処理を組み合わせます。
有機水銀は塩素で酸化分解して無機水銀に変えてから硫化物法へ。無機水銀は直接、硫化物法で硫化水銀として沈殿させ、最後に活性炭・キレート樹脂で仕上げる。
硫化物法で硫化水銀として沈殿させる
硫化物法は、排水に硫化ナトリウムなどを加え、水銀を硫化水銀(HgS)に変えて沈殿させる方法です。
多くの重金属は水酸化物にして沈殿させますが、水銀では硫化物法が向いています。
理由は、金属の硫化物の溶解度積は水酸化物より小さいからです。
溶けにくさが上なので、硫化物法は中性付近のpHでも水銀を低濃度まで沈殿させられます。
生成した硫化水銀の沈殿は溶けにくく、強酸性でも溶解しません。
なぜ硫化物を入れすぎると再溶解するのか
硫化物法には、薬剤を入れるほど効くわけではない、という落とし穴があります。
硫化物イオン(S²⁻)が過剰になると、水銀がふたたび溶け出します。
過剰な硫化物イオンが水銀と結びついて溶けやすい多硫化物(錯体)をつくるためです。
そこで対策として鉄塩(鉄(Ⅱ)塩・鉄(Ⅲ)塩)を併用します。
鉄が過剰な硫化物イオンを固定し、同時にできる水酸化鉄の共沈効果で沈殿の凝集性も上がり、微量まで安定して処理できます。
鉄塩を併用しない硫化物法だけでは、排水基準以下に安定して処理するのは難しいとされます。
また硫化水素の毒性・臭気・腐食性のため、硫化物法そのものより、硫黄系の重金属捕集剤を使う例が増えています。
有機水銀は塩素で酸化分解してから処理する
有機水銀(メチル水銀など)は、炭素と結びついていて、硫化物法だけでは十分に沈殿しません。
そこで前処理として、塩素による酸化で有機水銀を分解します。
塩素で無機の塩化水銀(Ⅱ)に分解(無機化)し、そのうえで硫化物法にかけます。
無機の水銀に変われば、あとは無機水銀と同じ流れで硫化水銀として沈殿させられます。
活性炭吸着・キレート樹脂で高度処理する
沈殿・ろ過のあと、より低い濃度まで下げる仕上げが高度処理です。
活性炭吸着は、硫化物法などの後処理に使い、水銀はpH1〜6の酸性側で吸着効率がよくなります。
水銀キレート樹脂は、硫黄系の官能基(ジチオカルバミド酸基・チオ尿素基・チオール基など)で水銀を選びとって捕まえます。
低濃度の排水や、凝集沈殿した処理水をさらに磨く高度処理に向きます。
なお、ここでいうキレート樹脂は、排水中で重金属の処理を邪魔する側のキレート剤(有機酸など)とは別物です。
主な処理法を表にまとめます。
| 処理法 | しくみ | ポイント |
|---|---|---|
| 硫化物法 | 硫化物イオンを加え、水銀を硫化水銀(HgS)として沈殿 | 硫化物の溶解度積は水酸化物より小さく、中性付近でも処理可。過剰な硫化物イオンで再溶解 |
| 鉄塩の併用(共沈) | 鉄(Ⅱ)・鉄(Ⅲ)塩を加える | 過剰な硫化物イオンを固定し、水酸化鉄の共沈で凝集性を高め微量まで処理 |
| 塩素による酸化分解 | 有機水銀を無機の塩化水銀(Ⅱ)に分解 | 有機水銀の前処理。分解後に硫化物法で処理する |
| 活性炭吸着 | 活性炭に水銀を吸着 | 酸性側(pH1〜6)で吸着がよい。硫化物法の後処理に使う |
| キレート樹脂 | 硫黄系官能基(ジチオカルバミド酸基など)で水銀を捕捉 | 低濃度排水や処理水の高度処理(仕上げ)に向く |
水質有害物質特論での問われ方
水銀排水の処理は、水質有害物質特論でくり返し問われます。
令和6年度 水質有害物質特論 問5では、硫化物法で生成する硫化水銀の沈殿が強酸性でも溶解しないこと、再溶解への対策として鉄(Ⅲ)を併用すること、活性炭への吸着はpH1〜6の酸性のほうが効率がよいこと、水銀キレート樹脂の硫黄系官能基などが正誤で問われました。
令和7年度 水質有害物質特論 問4は、有機水銀排水がテーマでした。塩素で酸化分解した後に硫化物法で処理すること、後処理として吸着処理を行うこと、水銀専用キレート樹脂としてジチオカルバミド酸基をもつものがあることが問われています。
令和元年度 問5・令和3年度 問6でも、過剰な硫化物による再溶解、有機水銀の塩素酸化分解、水銀キレート樹脂の組み合わせが正誤で出ています。
理解度チェック
硫化物法で、硫化物イオンを過剰に加えるとどうなるか。
水銀が再溶解します。過剰な硫化物イオンが溶けやすい多硫化物をつくるためです。対策として鉄塩を併用します。
有機水銀(メチル水銀など)を含む排水は、どんな前処理をしてから硫化物法で処理するか。
塩素で酸化分解し、無機の塩化水銀(Ⅱ)に変えます。無機の水銀にしてから硫化物法で沈殿させます。
水銀キレート樹脂が水銀を捕まえるのに使う官能基は、どんな系統か。
硫黄系の官能基です。ジチオカルバミド酸基・チオ尿素基・チオール基などがあります。
まとめ
水銀を含む排水は、無機水銀なら硫化物法で硫化水銀として沈殿させ、有機水銀は塩素で酸化分解して無機化してから硫化物法で処理します。
硫化物イオンの過剰による再溶解は鉄塩の併用と共沈で抑え、仕上げに活性炭吸着やキレート樹脂で高度処理します。
「過剰な硫化物で再溶解」「有機水銀はまず塩素で分解」の2点を押さえれば、水質有害物質特論の水銀排水の問題に対応できます。
参考
- 一般社団法人 産業環境管理協会 公害防止管理者等国家試験(水質有害物質特論 令和元年問5・令和3年問6・令和6年問5・令和7年問4)・公式正答
- 水銀排水処理の標準的事項(硫化物法による硫化水銀の沈殿・過剰硫化物イオンによる再溶解・鉄塩の併用と共沈・有機水銀の塩素酸化分解・水銀キレート樹脂の硫黄系官能基・活性炭吸着のpH)
※ この記事の確認日:2026年6月
まちがえやすいポイント
硫化物法では「硫化剤を入れるほどよい」わけではない点と、有機水銀の前処理が狙われます。
硫化物イオンが過剰になると、かえって水銀が再溶解します。また有機水銀はそのまま硫化物法では処理できず、塩素で酸化分解して無機化してから処理します。