遮音塀(防音壁)の回折減衰とフレネル数(行路差・N=2δ/λ)
エコまる
同じ塀でも、低い音だけ回り込んで効きにくいのはどうして?
遮音塀(防音壁)は、音源と受音点の間に立てて音を遮る塀です。
音源と受音点を結ぶ直線を塀がさえぎると、音は塀の上端で回折して回り込み、その分だけ弱まります。これが回折減衰です。
塀を通り抜ける音は音響透過損失で抑えますが、塀の遮音性能を主に決めるのは、上端を回り込む回折による減衰です。
騒音・振動特論では、回り道の長さ(行路差)とフレネル数から減衰量を求める計算が問われます。
遮音塀はなぜ音を減らすのか(上端での回折)
塀がなければ、音は音源から受音点へ直線で届きます。
塀を立てると直線がさえぎられ、音は塀の上端を回り込んで受音点に届きます。回り込む道すじは直線より遠回りになるため、その分だけ音が弱まります。
この回り道と直線との差を行路差δと呼びます。
行路差δは、(音源→塀の頂点→受音点をたどる経路長)から(音源→受音点の直線距離)を引いた値です。塀が高いほど、また直線から深く食い込むほど、行路差δは大きくなります。
音は塀がなくても距離とともに弱まります(距離減衰)。塀による回折減衰は、その距離減衰に上乗せされる効果です。
直線距離は塀でさえぎられ、音は頂点Oを回り込む。回折経路と直線距離の差が行路差δ。
フレネル数N=2δ/λで減衰量が決まる
回折減衰の大きさは、行路差δと音の波長λから求めるフレネル数Nで表します。
フレネル数N=2δ/λです(δ:行路差、λ:波長。波長λは音速cを周波数fで割った値で、音速は340m/sを使います)。
そしてフレネル数Nが大きいほど、減衰量が大きくなります。δが大きい(塀が高い・直線から深い)ほど、また周波数が高い(波長が短い)ほどNが大きくなります。
フレネル数に対する減衰量は、前川チャート(フレネル数を横軸、減音量を縦軸にとった図)から読み取れます。
塀で実際に得られる減衰量は、おおむね数dBから20dBを超える程度で、実用上は25dB程度が限界とされます。
フレネル数Nが大きいほど減音量が増え、やがて頭打ちに近づく。
なぜ低い音ほど効きにくいのか
フレネル数N=2δ/λは、波長λが分母にあります。
低い音は波長λが長いので、同じ塀でも行路差δに対してNが小さくなり、減衰量が小さくなります。
言いかえると、低い音ほど塀の上端を回り込みやすく、遮りにくい音です。だから低周波音は、塀だけでは対策がしにくい音として扱われます。
逆に高い音は波長が短く、塀でよく遮れます。
「回折」減衰と「透過」損失の違い
塀がからむ遮音には、音の道すじが違う2つの効果があります。
1つは塀の上端を回り込む音の回折減衰、もう1つは塀を貫いて通り抜ける音の透過損失です。
塀の遮音性能を主に決めるのは回折減衰で、透過損失は通り抜ける音を十分小さくしておくための条件にあたります。
| 項目 | 回折減衰(この記事) | 透過損失 |
|---|---|---|
| 音の道すじ | 塀の上端を回り込む | 塀を貫いて通り抜ける |
| 決まり方 | 行路差δ・フレネル数N=2δ/λ | 壁の面密度(質量則) |
| 周波数の効き方 | 高い音ほどよく効く(低い音は回り込む) | 高い音ほど大きい(低い音は通り抜けやすい) |
| 塀での役割 | 塀の遮音性能を主に決める | 透過音を十分小さくしておく前提 |
効く塀・効かない塀の条件
同じ高さの塀でも、立てる位置や長さで効果が変わります。
まず塀を立てる位置は、音源か受音点に近いほど行路差δが大きくなり、減衰量が大きくなります。ちょうど中間に立てたときが最も小さくなります。
塀の長さが高さの5倍以上あれば、無限に長い塀とみなして減衰量を計算できます。すき間があるとそこから音が漏れます。
塀材料の透過損失は、回折による減音量より10dB以上大きくとります。透過する音が大きいと、せっかくの回折減衰が打ち消されるためです。
塀の音源側の表面に吸音材料を張ると、塀と音源の間で音が往復して回り込むのを抑えられます。
| 条件 | 効く(減衰大) | 効きにくい |
|---|---|---|
| 塀の位置 | 音源か受音点に近い | ちょうど中間 |
| 塀の高さ・行路差δ | 高く、直線から深い | 低く、直線すれすれ |
| 音の周波数 | 高い音 | 低い音 |
| 塀の長さ・すき間 | 高さの5倍以上・すき間なし | 短い・すき間あり |
| 塀材料の透過損失 | 減音量より10dB以上大きい | 小さく透過音が漏れる |
騒音・振動特論での問われ方
遮音塀は、回折による減衰量を計算させる問題と、塀の効果に関する正誤問題の両方で出ます。
令和3年度の騒音・振動特論(問5)では、フレネル数を横軸・減音量を縦軸にとった図から、ねらいの減衰量を得るのに必要な塀の高さを読み取る計算が出ました。
令和2年度(問5)では、周波数1kHzで20dBの減衰が得られた塀について、250Hzでの減衰量を問う計算が出ました。周波数が下がると減衰量も小さくなります。
令和6年度(問5)でも、680Hzで21dBの塀が340Hzでどれだけ減衰するかが問われ、低い音ほど効果が下がる関係が背骨です。
令和元年度(問4)や令和5年度(問3)では、音源と受音点の配置から、回折による減音量の差を求める問題が出ています。
令和7年度(問5)では、塀の高さを2.5mから5mに変えたときの低減量を計算させ、同(問4)では塀の最大減衰効果は実用的に25dB程度、という記述が出ました。
令和4年度(問5)では、塀を音源と受音点の中間に立てたときに一番大きな減衰量が得られる、という記述が誤りでした。実際は音源か受音点に近いほど効果が大きくなります。
令和元年度(問5)では、建物を同じ高さの塀に置き換えて減音量を計算できる、という記述が誤りとして扱われました。
理解度チェック
遮音塀が音を減らすのは、塀の上端で音が何という現象を起こすからか。
回折です。直線をさえぎられた音が塀の上端を回り込み、その遠回りの分だけ弱まります(回折減衰)。
行路差δと波長λを使って、フレネル数Nはどう表されるか。Nが大きいと減衰量はどうなるか。
N=2δ/λです。Nが大きいほど減衰量は大きくなります。塀が高く行路差δが大きいほど、また波長が短い(高い音)ほどNが大きくなります。
同じ塀で、高い音と低い音では、どちらがよく遮れるか。
高い音です。低い音は波長が長く、塀の上端を回り込みやすいので遮りにくくなります。
塀を音源と受音点の中間に立てる場合と、どちらかに近づけて立てる場合とで、減衰量が大きいのはどちらか。
どちらかに近づけた場合です。中間に立てたときが最も小さく、音源か受音点に近いほど行路差δが大きくなって効果が増します。
まとめ
遮音塀は、音源と受音点の直線をさえぎり、音が塀の上端で回折して回り込むことで減衰します。その減衰量は、行路差δと波長λで決まるフレネル数N=2δ/λが大きいほど大きくなります。
「N大(δが大きい・高い音)ほどよく効く」「低い音は回り込んで効きにくい」「実用上25dB程度が限界」「中間でなく音源・受音点に近いほど効果大」の4点を押さえれば、騒音・振動特論の塀の問題はほぼ取りきれます。
参考
- 遮音塀(防音壁)の回折減衰(行路差δ、フレネル数N=2δ/λ、前川チャートによる減音量、低周波ほど減衰量が小さい、実用上の最大減衰量25dB程度、塀材料の透過損失は回折減音量より10dB以上、塀の長さは高さの5倍以上で無限長とみなす)
- 日本建設業連合会 技術研究部会 音環境専門部会「回折減衰」用語解説ほか
- 一般社団法人 産業環境管理協会 公害防止管理者等国家試験 騒音・振動特論 出題範囲・公式正答(令和元年・令和2年・令和3年・令和4年・令和5年・令和6年・令和7年 ほか)
※ この記事の確認日:2026年6月
まちがえやすいポイント
塀を立てる位置と、周波数による効きの向きが狙われます。
塀は音源と受音点の中間が最大ではなく、どちらかに近いほど減衰量が大きくなります。また低い音ほど回り込みやすく塀の効果は小さく、高い音ほどよく効きます。